中国法における(1)不安の抗弁権と(2)売買契約の売主の担保責任について

私は、中国語が出来ないので、中国語の契約書を審査する機会はありませんが、中国法人の取引先と、中国法を準拠法として、日本語もしくは英語の契約書を締結する機会はそこそこありますので、契約関連の中国法について理解を深めようと、曾我 貴志氏著作の「中国契約マニュアル―主要契約条項の日中対照文例集」を読んでみました。

本書は以下のような構成となっており、


 <目次>
 第1部
 契約の基本と一般条項の文例(中国ビジネスにおける契約とは;一般条項)

 第2部
 類型別にみる契約条項の文例(合弁契約;技術ライセンス契約;国際売買契約;
 国内売買契約;国内代理店契約;国内業務委託契約)


この手の本と同様、冒頭部分で一般条項についての解説が、後半部分で、各種契約書に特有の条項に関する解説がされており、中国語の条項とその日本語訳が併記されています。ただ、解説部分では、比較法的な観点による日本法と中国法の相違点の解説までは踏み込まれておらず、日本語訳が参考程度にしか記載されていないのが、個人的には残念なところです。

本書で主に参考になったのは2点ありまして、1点目は、日本法では法律に明文化されていない「不安の抗弁権」が、中国法では、契約法第68条、第69条で明記されている点です。本書では、不安の抗弁権が認められる為の法律上の要件は抽象的である為、契約においてその条件を具体化しておく必要があるとコメントされています。

 ※中国の契約法の日本語訳は、中国の唐山市が、下記HPにて無断転載禁止を条件に
  公開していますので、上記要件については知りたい方は下記HPをご参照下さい。
  http://www.e-tangshan.cn/houritu/hetongfa.pdf

日系の中国法人を除き、ローカルの中国企業は、日系企業と比較して、色々と難癖を付けて、期日通りの代金支払いや製品の納入を履行しないケースが多いですが、後で、債務不履行の根拠として「不安の抗弁権」を主張させない為にも、契約書内で上記権利の発動条件を明記しておきたいと思いました。

また、もう一点、本書で参考になったのは、売買契約における(日本法でいうところの)瑕疵担保責任期間に関する解説部分です。


<以下、抜粋>
買主は、貨物を受領した際に、約定された期間内に(検査期間を約定していない場合には、遅滞なく)検査しなければならない(「契約法」第157条)。検査の結果、貨物の数量又は品質が約定に適合していない事情を発見した場合には、買主は約定の検査期間内に(検査期間を約定していない場合には、発見に必要な合理的な期間内)売主に通知しなければならない(「契約法」第158条第1項、第2項)。買主が約定の検査期間内(検査期間を約定していない場合には、合理的な期間内又は貨物を受領した日より2年以内)に売主に通知しなかった場合には、貨物の数量及び品質は約定に適合したものとみなされる(「契約法」第158条第1項、2項)。ただし、提供した貨物が約定に適合しないことを売主が知り、又は知り得べき場合には、買主は上記の期間の制限を受けない(「契約法」第158条3項)
<抜粋終了>


ということで、中国法では、売買契約の場合、売買契約における(日本法でいう)瑕疵担保期間は2年間のようですね。

なお、私が2011年12月28日に記載した本ブログの記事(書籍:ビジュアル対訳 基礎からわかる中国語契約書)では、中国の瑕疵担保期間について以下の通り記載しておりました。


<以下、抜粋>
私の理解では、

中国では「製品品質法」上の「三包責任」が、日本でいう「瑕疵担保責任」に該当し、納入製品に、性能不備や仕様との不一致等があった場合、製品の購入者は、「その権益に損害を受けると知ったあるいは知るべきときから」2年間、製造者に対して修理、交換、返品、損害賠償を請求することが出来る。

と考えています。しかし、上記理解が正解なのかどうかどうも怪しいので、今後の個人的な課題として、引き続き調査を進めたいと思います。
<抜粋終わり>


上記記載は、上記部分だけを抜き出して見れば、今読み返しても間違いのある記述ではありません。しかし、「三包責任」は、消費者保護的な観点から、あくまで事業者と消費者に適用される担保責任であり(たぶん・・)、事業者間には適用されない条件です。当時私は、上記記事を、「三包責任」は事業者間との取引にも適用される規定であるという理解で記載しておりました。「私の理解では、」なんてカッコいいことを言っておきながら、ここで勉強不足が露呈してしまい、非常に恥ずかしい限りです・・orz

ただ、これまでの契約実務では、品質保証条項について、「法律では○○となっているから、○○という条件に修正して欲しい」的な交渉をしたことは無く、あくまで、「サプライヤーとの契約」または「顧客との契約」内容を根拠に契約交渉してきましたので、自分の間違った知識を相手方に披露することは無かったのはせめてもの救いですが・・。

さて、本書(中国契約マニュアル)に話を戻しますが、ここで注意が必要なのは、「2年間」の瑕疵担保期間は、あくまで売買契約に適用される条件である点です。

この手の取引基本契約書の解説本で、「売買契約の担保期間が2年間」と解説されていると、


 「売買契約の担保期間は2年間」
       ↓
 「(売買と請負契約の混合契約である)取引基本契約書の担保責任は法的には2年間」
       ↓
 「請負契約の担保期間は2年間」


と(以前の私のように)脳内変換する人がいるかと思いますので注意しましょう。

日本法であれば、上記の通り脳内変換された方が、「ご承知の通り、商人間の契約では、瑕疵担保責任は、商法第526条に基づき6か月間と定められているので、今回の契約書(請負取引なのに・・)の瑕疵担保期間は6か月間に変更してください。」なんて主張をしてくる取引先がたまにいまして、特に大手企業から上記のような主張をされますと、先方の理解が間違っているのか、もしかしたら、当方の理解に間違いがあるのかと混乱しますし、また、返答に困るので、止めて欲しいものです。

じゃあ、中国法における請負契約の請負人の担保責任はどうなのか、ということですが、中国法の「契約法 第15章(請負契約) 第262条」には、請負人の成果物に対する担保責任が定められているものの、具体的な担保責任期間については明記されていません。

上記責任期間は、おそらく、売買契約の場合の担保責任期間(2年間)が準用されるのか、もしくは、債務不履行責任ということで、民法通則第135条に定める「一般訴訟訟時効:2年」が適用されるのかと思われますが(たぶん・・)、本書には「請負契約」に関する解説が無く、また、ググってみたものの、請負契約の担保期間を解説したページを見つけられなかったので、私は正解を知りません。上記テーマについては、今後の個人的な課題としたいと思います。

なお、日本法における売買契約と請負契約の瑕疵担保責任については、私がいつも拝読している下記ブログで最近、取り上げられており、非常に参考となるとともに、勉強不足を改めて痛感しましたので、以下にリンクを貼らせて頂きます。

・企業法務マンサバイバル
 【本】トンデモ“IT契約”に騙されるな ― たかが瑕疵担保責任、されど瑕疵担保責任
 http://blog.livedoor.jp/businesslaw/archives/52348640.html

・日々、リーガルプラクティス。
 請負契約・準委任契約における損害賠償請求の請求期間・起算点
 http://ameblo.jp/legal-practice-in-house/entry-11714596913.html

・dtk's blog (ver.3)
 トンデモ“IT契約"に騙されるな /上山 浩 (著), 日経コンピュータ (編集)
 http://dtk.doorblog.jp/archives/34523250.html

私は7年間も法務担当として契約審査をしている身でありながら、瑕疵担保責任についてはまだまだ理解が足りないので、これから法務担当の後輩が入ってくることですし、可及的速やかにこのテーマについての穴を潰していきたいと思います。

中国契約マニュアル―主要契約条項の日中対照文例集中国契約マニュアル―主要契約条項の日中対照文例集
(2011/12)
曾我 貴志

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