取引基本契約書の相殺条項と「相殺 無制限説」について

今般は、伏見和史氏著作「英文売買書式と取引実務」を読んでみました。
早速ですが、本書で参考になった個所を以下に抜粋してみたいと思います。


「民法505条1項は『双方の債務が弁済期にあるとき』(相殺適状)を相殺の
 要件としているが、相殺の意思表示現在で、相殺する債権(自働債権)の弁済期が
 未到来、かつ相殺される債権(受働債権)の弁済期は自働債権の弁済期より
 さらに先だった場合、相殺は可能だろうか。最高裁判例(最大判昭45・6・24民集
 24巻6号587頁)では、これを肯定する。これを無制限説といい、通説である。
 よって、現在では相殺適状にあるか否かを問わず、債権と債務とがあれば、
 権利行使について濫用がないかぎり、これを相殺することができると解釈されるが、
 対象の債権・債務に対して第三者の差押えや債権譲渡があった場合にはケース・バイ・
 ケースだとの有力説もある。」


私は上記の第505条の定めはもちろん知っていましたが、恥ずかしながら
上記の「無制限説」については知りませんでした・・orz

しかし、上記判例の相殺の担保的機能を重視する考え方も分からなくはないですが、
当方の自働債権の弁済期が受働債権の弁済期よりも先に到来する場合でも、
相手方が相殺出来てしまうとなると、当方は予定よりも早くキャッシュアウトすることに
なるので、何だか、個人的には納得がいきませんね。

なお、取引先から提示される取引基本契約書の相殺条項には、

「第20条(相殺)
 甲(=取引先)は、弁済期の到来の有無に拘わらず、乙(=当社)に対して
 債権、債務を有している場合は、いつでも乙に対する通知をすることで、当該債権、
 債務の相殺を実施することが出来る。」

みたいな条文が定められているケースが結構あります。
上記の契約書に出くわした場合、上記の無制限説を知らなかった私は、これまで
以下のような提案をしていました。

「平時においては、双方の債権債務の弁済期が到来した場合に、相殺が出来るとするのが
 合理的であるので、第20条は以下の様に修正してください。

<修正案>
 第20条(相殺)
 甲(=取引先)は、乙(=当社)に対して、弁済期の到来した債権、債務を
 有している場合は、いつでも乙に対する通知をすることで、当該債権、債務の相殺を
 実施することが出来る。」

上記の提案は過去数十回はしていますが、これまで、相殺の無制限説に基づいて、
原文の正当性を主張されたことは一回もなかったですね。

上記の提案を受けた取引先の法務担当者の考えは私には知る由もありませんが、
おそらく、以下のようなことを考えているのでしょう。

<思考パターン例>
パターン1:取引先の法務担当者も相殺の無制限説を知らず、「言われてみれば
       確かにそうだなぁ。先方(=私)の提案通りに修正しなくっちゃ。
       ついでに、雛型契約書も見直そうかなぁ。」というパターン。

パターン2:「顧問弁護士に言われてこの条項の内容にしたけど、先方(=私)の主張にも
       一理あるな。下手に原文通りと主張したら、当事者公平の観点から
       「甲および乙は~」に修正してくれ、と言われても厄介だから、
       今回の提案を受け入れよう。」

パターン3:「おいおい、こいつ(=私のこと)は「相殺の無制限説」を知らずに、
       こんな提案してきちゃってるよ、ぷぷぷ( ´,_ゝ`)
       しかしまあ、こいつに色々教えてやるのも面倒くさいから、
       「全ての取引先様と同じ条件で締結していますので」とでも言って、
       原文通りで納得させよう。ぷぷぷ( ´,_ゝ`)
etc.

今回、相殺の無制限説を知ったからといって、今後の相手先への提案方法を
従来と変更することは考えていませんが、今回の反省を機に、民法の基本書から
勉強し直そうかと思います・・。


英文売買書式と取引実務英文売買書式と取引実務
(2006/12)
伏見 和史

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制限説であっても無制限説であっても、相殺適状になければ相殺できないという点について相違はないのではないでしょうか。

http://oshiete.goo.ne.jp/qa/922671.html

上記リンクにも詳細な記載がありますが、
無制限説というのは、差押えと相殺が競合する場面に限定された話であり、通常の2者間の取引では、民法第505条1項どおりの考えで良いと思っていましたが…どうなのでしょう?

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

株式取引さん、コメントありがとうございます!

今後とも定期的に更新していきたいと思いますので、
よろしくお願いします。
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