「本契約は甲の子会社にも同様に適用される」という文言に関する一考察

基本契約書の審査をしていますと、「本契約は甲の子会社にも同様に適用される」という文言に
出くわすことがたまにあります。

現在、この手の契約書について問題が発生しているわけではありませんが、
今回はこの文言について、私なりに無い頭を使って少し考えてみたいと思います。
なお、「おいおい、その考え方はおかしいよ」という方は正しい内容をご教示ください・・。

<前提条件>
1.甲と乙(当社)とが取引基本契約書を締結。
2.当該契約書の末尾には、甲の子会社(A社)の名前が記載されており、契約書本文には、
  「本契約はA社と当社との取引にも同様に適用される」
  と記載されている。
3.A社の署名捺印は本契約書上に無い。
4.本契約の締結に際して、A社から「本契約の締結に関する権限を甲に委任する」旨の
  委任状等を当社は受領していない。また、口頭でも確認していない。
5.後日、本契約書に基づいてA社に契約の履行を請求したところ、A社から
  「A社は本契約書には署名捺印していない。また、甲はA社の親会社とはいえ、
  あくまで別法人であるし、A社は甲に代理権を与えていないので、
  A社は本契約に拘束されないはず。」
  と言われてしまった場合。

<当社の対応1-「表見代理」を根拠にして、A社に契約の履行を再度要求する>

ご承知の通り、表見代理には

1.代理権授与の表示による表見代理(民法109条)
2.権限外の行為の表見代理(民法第110条)
3.代理権消滅後の表見代理(民法第112条)

の三種類がありますが、本件ケースであれば、上記2を適用できそうです。

しかし、上記2が適用される要件には

①代理人に基本代理権が存在すること
②代理人がその代理権の範囲をこえて代理行為をなすこと
③相手方において代理人に権限があると信じるべき正当な理由があること

の三つが必要とありますので、本件ケースでは、甲にA社の基本代理権があり、
当社とA社との契約の代理行為は、その基本代理権の越権行為であることが必要となります。

しかし、本件ケースの前提条件では、甲にA社の基本代理権があることを想定していませんので、
上記2の「権限外の行為の表見代理」は主張できないことになります。
また、上記1、3の表見代理も本件ケースにあてはまりそうにありませんので、
結局、当社はA社に契約の履行を請求できないことになりそうです。


<当社の対応2-無権代理人の責任を追及するべく、甲に損害賠償を請求する>

民法第113条(無権代理)に従い、A社が本契約の帰属を拒絶している以上、
甲がA社の代理として行った契約の法的効果は、A社には帰属しないことになるので、
当社としては、契約の履行をA社に請求することは断念します。


 民法 第113条(無権代理)
 1.代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認を
   しなければ、本人に対してその効力を生じない。
 2.追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することが
   できない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない

そのかわり、代理権がないにも関わらず、A社の代理人として契約行為をしたとして、
甲に責任追及をすることを検討します。

但し、民法第117条(無権代理人の責任)によると、相手方(当社)が、
無権代理人(甲)に代理権がないことを知っていた場合、
もしくは過失によって知らなかったときは、責任を追及出来ないことになります。

 民法 第117条(無権代理人の責任)
 1.他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、
   かつ、本人の追認を得ること   ができなかったときは、相手方の選択に従い、
   相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
 2.前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを
   相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、
   又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

なお、「最判昭62・7・7民集41巻5号1133頁」によると、民法第117条1項の
無権代理人の責任は、「相手方の保護と取引の安全並びに代理制度の信用保持の
ために、法律が特別に定めた無過失責任」であり、その免責となる要件である過失は、
「重大な過失」に限定されるものではなく、通常の「過失」で足りると判断されています。

ということで、今回のケースでは、甲がA社を代理する権限を有するのかについて、
当社がA社に確認したかどうか等、「当社の過失の有無」が争点になりそうです。
ただ、どのようなことが過失になるのかは定かではありません。

<まとめとして>

長々と書いてしまいましたが、結論としては、上記の事態に陥った場合は
甲に無権代理人として責任を追及するしかないということになりそうですので、
今後、「本契約は甲の子会社にも同様に適用される」という条文のある契約書を
締結する場合は、念のため、甲の子会社にも、上記の事実に問題ないか
確認したほうが良いということになります。

ただ、実際問題として、当社の業界でいえば、N○C社、富○通社やS○NY社の様な
大手上場会社から、上記の条文のある契約書を提示された場合、
当該大会社には子会社の数が多数ありますので、全部の子会社にいちいち
代理権付与の意思なんて確認できませんが・・。
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「企業法務担当者のビジネスキャリア術」のSabosanです。

私もときおり、そのような取引基本契約書を目にしたことがあり、普段から疑問に感じていました。ご指摘のとおり、親子会社といえども、法人格は別なのですから、子会社のあずかり知らぬところで親会社が他社と締結した契約を勝手に子会社に適用させることが果たしてまかり通るのであるか、と…。

その時、私もいろいろ調べた記憶はあるのですが、結局は結論が出ず、原案を受諾した次第です。良い機会ですので、再度調べてみたいと考えております。

Sabosan

コメントありがとうございます

Sabosanさん

コメントありがとうございます。

私は、これまで契約書を作成している時に、
「当社とA社との契約が、当社の子会社とA社との
 取引にも同様に適用される」
という条文を設けて締結したことがあるんですが、
その有効性をあまり考えずに作成していたこともあって、
今回検証してみました。

といっても、今回の検証の結果が正解なのか分かりませんので、
今度、何かの機会に顧問弁護士に確認してみたいと思います。

「本契約は甲の子会社にも同様に適用される」について

たまたまネットサーフィンをしていて拝見させていただきました。
私の会社では、「本契約は甲の子会社にも同様に適用される」という文言ではなく、
「甲は、自己の責任のもと、本契約で規定される義務を甲の子会社にも同様に課すものとする。」
というようなかたちで規定しております。
おっしゃる通り、甲の子会社は契約当事者ではありませんので、
基本的には、甲に対して義務を課すように記載をすることが必要だと思います。

拙ブログにもよろしければお立ち寄りください。
(現代の臥竜窟)
http://blogs.yahoo.co.jp/taka_007jp

コメントありがとうございます。

ご指摘の通り、「甲は、自己の責任のもと、本契約で規定される義務を
甲の子会社にも同様に課すものとする。」
という文言の方が、後々の甲への責任追及がし易そうですね。

なお、「本契約は甲の子会社にも~」や「「甲は、自己の責任のもと、」に限らず、
このような文言の有効性の検証については今度の個人的な課題にしたいと思います。
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